ひらがなは入学前にどこまでできればいい?読む・書くの準備

「ひらがな、全部読めた方がいいのかな」「名前くらいは書けないと困るかも」「周りの子はもう書けるみたいだけど、うちの子は大丈夫?」

小学校入学が見えてくると、こんな心配が頭をよぎる保護者の方は少なくありません。年長の後半にもなると、絵本をすらすら読む子や、友達に手紙を書く子も出てきます。そういう姿を見かけると、「入学までに全部読み書きできるようにしておかないと」と焦ってしまいますよね。

けれど、入学前の時期に大事なのは、覚えた文字の数だけではありません。幼児期は、遊びや生活のなかで文字に出会い、「読んでみたい」「自分でも書いてみたい」という気持ちを少しずつ育てていく時期です。その積み重ねが、小学校での学習の土台になっていきます。

では実際のところ、入学前にどこまでできていれば安心なのでしょうか。この記事では、文部科学省などの公的資料を手がかりに、年長さんから新1年生のお子さんをもつ保護者の方に向けて、「読む・書く」の準備を整理してみます。


1.ひらがなは入学前に全部読めて、全部書けないといけない?

まずは、いちばん気になるところから見ていきましょう。

「入学前にすべて読み書きできること」という決まりはありません

結論から言うと、入学前にひらがなをすべて読み書きできなければならない、という一律の基準はありません。

文部科学省の「幼稚園教育要領」、厚生労働省の「保育所保育指針」、そして「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」では、幼児期の文字について共通の考え方が示されています。遊びや生活のなかで文字に親しみ、その役割に気付き、子ども自身が必要だと感じたときに使ってみる。そうした経験を大切にするという考え方です。

一方、小学校の国語では「平仮名及び片仮名を読み、書くこと」が学習内容として定められています。ひらがなは、入学後にきちんと学ぶ内容でもあるのです。ですから、幼児期のうちに文字の学習を完成させてから入学する、という前提ではありません。

できることは子どもによってさまざま

同じ年長さんでも、ひらがなをほとんど読める子もいれば、自分や友達の名前なら分かるという子もいます。読める文字は多いのに書くのはまだ難しい子、名前だけは書こうとする子、文字より絵を描くほうが好きな子もいます。本当に一人ひとり違います。

そこで、「何文字できるか」を数えるよりも、次のような姿が見られるかどうかに目を向けてみてください。

・自分の名前など、身近な文字に気付く
・「これ何て書いてあるの?」と文字に興味を示す
・読める文字を見つけてうれしそうにする
・鉛筆やクレヨンで線や丸を描く
・自分でも文字を書いてみようとする

これは国が決めた入学の基準ではなく、家庭でお子さんの育ちを見守るときの目安として挙げたものです。

また、ひらがなの学習は「あいうえお」の清音だけで終わるわけではありません。小学校では、濁音や半濁音、小さい「っ」や「ゃ・ゅ・ょ」なども含めて、文字や表記を段階的に学んでいきます。「全部できる・できない」の二択で考えず、小学校の学びにつながる経験を少しずつ増やしていければ十分です。


2.文部科学省は入学前の「文字」をどう考えている?

幼児期の文字との関わり方を考えるうえで参考になるのが、文部科学省の「幼稚園教育要領」です。そこでは、日常生活のなかで簡単な標識や文字などに関心をもつことが示されています。あわせて、文字や数量については、子ども自身が「必要だ」と感じる体験を大切にすることも述べられています。

「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」にも文字が出てくる

文部科学省は「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として10の姿を示しています。そのうちの一つが「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」です。遊びや生活のなかで文字に親しみ、その役割に気付き、必要に応じて使うことで、興味や関心を深めていく姿が描かれています。

具体的には、「お友達に手紙を書きたい」「自分の持ち物に名前を書きたい」「この看板、何て書いてあるの?」といった場面が思い浮かびます。

大人に「今日は『あ』を10回書きなさい」と言われて書くのと、「○○ちゃんにお手紙を書きたい」と思って書くのとでは、同じ文字でも子どもにとっての意味がまるで違います。後者には、文字を使って自分の気持ちを伝えたいという、はっきりした目的があるからです。

「10の姿」はテストの合格ラインではない

気を付けたいのは、この「10の姿」をチェックリストのように使ってしまうことです。「年長の3月までに、ここまで全部できていなければならない」という意味ではありません。子どもたちは、遊びや生活のいろいろな経験を通して、こうした力を少しずつ育てていきます。

なお、この考え方は幼稚園に限った話ではありません。「保育所保育指針」や「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」にも、同じく「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」が示されています。幼稚園・保育所・認定こども園のどこに通っていても、大切にされているのは「何文字覚えたか」だけではなく、「生活や遊びのなかで文字に親しんでいるか」という視点なのです。


3.「読む準備」はどこまでしておけばいい?

では、家庭ではどんな準備をすればよいのでしょうか。まずは「読むこと」から考えてみます。

ここでも、読める文字の数を数えることが目的ではありません。文字に興味をもち、身近な文字に気付き、少しずつ文字と音が結び付いていく。そんな経験を増やしていくことが大切です。

下の表は、家庭で子どもの様子を見るときの一つの例です。国が定めた到達基準ではありませんし、子どもが①から⑤へ一直線に進むわけでもありません。興味や経験に応じて、行ったり来たりしながら伸びていくものだと考えてください。

段階子どもの様子家庭でできること
①文字に興味をもつ「これ何て書いてあるの?」一緒に身近な文字を見つける
②身近な文字が分かる自分や家族の名前に気付く名前カードなどを使う
③文字と音がつながる「いぬ」の「い」が分かるしりとりや言葉探しをする
④短い言葉を読む「ねこ」「くるま」などを読む身近な物の名前を一緒に読む
⑤短い文を楽しむ絵本などを自分でも読もうとする読み聞かせと自分読みを楽しむ

遊びながら「文字と音」をつなげる

たとえば「『あ』から始まるもの、何があるかな?」と親子で探してみるのはどうでしょう。「あめ」「あさ」「あひる」と、案外たくさん出てきます。

おなじみのしりとりも立派な練習になります。「りんご→ごりら→らっぱ」と続けていくうちに、言葉の最初や最後の音に自然と注意が向くようになります。

身の回りの文字を使ってみる

特別な教材を買わなくても、身の回りは文字であふれています。スーパーに行けば「りんご」「みかん」「パン」と書かれた値札があり、家の中にも絵本やお菓子の袋、カレンダー、家族の名前が書かれた物があります。

「○○ちゃんの名前と同じ文字、どこかにあるかな?」と一緒に探すだけでも、文字に触れるいい機会です。机に向かって教えることにこだわらず、「見つけた!」「これ読める!」という小さな喜びを積み重ねていきましょう。


4.「書く準備」は読むこととは少し違います

「読むことはできるのに、書くのは苦手みたいで」という声もよく聞きます。

実は、「読む」と「書く」では使う力が違います。文字を見て「これは『あ』だ」と分かることと、何も見ずに「あ」の形を思い出し、手を動かして書くことは別の作業です。そのため、読める文字が増えても、同じペースで書けるようになるとは限りません。読めるのに書けない、というのはごく自然なことなのです。

ひらがなは小学校の国語でも学ぶ

文部科学省の小学校学習指導要領では、第1学年及び第2学年の「文字に関する事項」として「平仮名及び片仮名を読み、書くこと」が示されています。さらに書写の時間には、姿勢や筆記具の持ち方、点画の書き方、文字の形、筆順、丁寧に書くことなどを学びます。

正しい文字の書き方は、入学してから段階を追って身に付けていく内容でもあるのです。

文字を書く前の「描く」遊びも大事

入学前に、文字だけを何度も書かせる必要はありません。クレヨンで大きな丸を描く、ぐるぐると渦巻きを描く、迷路やぬり絵を楽しむ、縦線・横線・曲線を描いてみる。こうした手を使う遊びも、書く準備につながります。

そのうえで、お子さんが文字を書きたがるようになったら、「自分の名前」「おかあさん」「ありがとう」「○○ちゃんへ」など、本人が書きたい言葉から始めてみてください。最初から整った字を目指すよりも、「自分の書いた文字で伝わった」という経験を大切にしたいところです。


5.家庭でできる「ひらがな準備」5つの方法

入学までの期間、家庭ではどんなことができるでしょうか。難しい教材をそろえるより、まずは暮らしのなかで文字に触れる機会をつくってみましょう。

①自分の名前から始める

子どもにとって、いちばん身近な文字は自分の名前かもしれません。持ち物や名前カードを見ながら「これが○○ちゃんの名前だね」と声をかけるだけでも、自然と文字に触れられます。書きたがるようになったら、お手本を見ながら書いてみるのもいいですね。

②絵本を一緒に楽しむ

「ひらがなを覚えさせるため」に絵本を読む必要はありません。まずは物語そのものを親子で楽しみましょう。読み聞かせの途中で「この文字、○○ちゃんの名前にもあるね」と、ときどき文字に目を向けるくらいで十分です。幼稚園教育要領でも、絵本や物語に親しみ、想像する楽しさを味わうことが大切にされています。

③文字探しゲームをする

買い物や散歩のついでにできる遊びです。「『あ』はどこにあるかな?」「○○ちゃんの名前と同じ文字を探してみよう」と、ゲーム感覚で文字を見る機会を増やしてみてください。

④手紙やメモを書く

文字には、自分の気持ちや伝えたいことを相手に届ける役割があります。「おとうさんへ」「ありがとう」「またあそぼうね」など、短い言葉からで大丈夫です。分からない文字があれば、大人がお手本を書いて、それを見ながら書いても構いません。

⑤「もう嫌」になる前に切り上げる

家での文字遊びは、長く続けること自体が目的ではありません。集中できる時間には個人差があります。「もっとやりたい」「またやってみたい」という気持ちが残っているうちに終えるくらいが、ちょうどいい加減です。

おすすめしたい関わり避けたい関わり
絵本を一緒に楽しむ無理に一人で読ませる
名前など身近な文字を書く何度も書き直させる
文字探しをゲームにする毎回テストにする
手紙やメモを書く間違いばかり指摘する
できたことに注目する他の子と比べる


6.こんな練習には注意―「正しく書かせる」ことを急ぎすぎない

入学が近づくと、「もうすぐ1年生なのに……」と、つい焦ってしまうこともあると思います。

ただ、「もう年長なんだから書けないとダメ」「○○ちゃんは全部読めるらしいよ」「違うよ、もう一回書いて」「小学校に行ったら困るよ」といった言葉が続くと、文字を書くこと自体が嫌になってしまうかもしれません。

間違いを見つけたときこそ、まずは書こうとした気持ちを受け止めてあげてください。たとえば子どもが手紙を書いてきたとき、「違うよ。『き』はこう書くの」で終わらせるのではなく、「『き』って書いたんだね。誰へのお手紙?」と聞いてみる。そのうえで「分からない文字、お手本を書こうか?」と手を貸せば、書きたい気持ちを保ったまま、正しい文字にも触れることができます。

入学前は、間違えないことばかりを目標にしなくて大丈夫です。「また読んでみたい」「また書いてみたい」と思える気持ちも、同じくらい大切にしていきましょう。


7.年長から小学1年生へ―幼児期の学びは小学校へつながっていく

いまの教育では、幼児期と小学校の学びをなめらかにつなぐことが重視されています。

国立教育政策研究所の「スタートカリキュラム」では、幼稚園・保育所・認定こども園などで遊びや生活を通して育ってきた力を土台にして、小学校生活へつないでいく考え方が示されています。園での学びがいったん終わって、小学校でまったく新しい学習がゼロから始まるわけではないのです。

幼児期に感じた「文字っておもしろい」「これ、読めた!」「自分でも書いてみたい」という気持ちは、そのまま小学校の国語の学びへとつながっていきます。

愛媛県教育委員会でも、幼児教育施設と小学校との円滑な接続に向けた取り組みが進められています。入学前にすべてを完成させようとするより、これまで育ってきた興味や経験を小学校へつないでいく。そんな見方をもっておくと、少し気持ちが楽になるのではないでしょうか。

気になることがあれば、一人で抱え込まずに

「文字にほとんど興味を示さない」「周りの子とかなり違う気がする」など、入学を前に気になることがあるときは、読み書きだけで判断せず、まずは通っている幼稚園・保育所・認定こども園の先生に相談してみてください。

日頃の様子をよく知っている先生と話すことで、家庭では見えなかった一面が分かることもあります。必要があれば、地域の就学や子育ての相談窓口につないでもらうこともできます。


8.まとめ|入学前に大切なのは「文字っておもしろい」と思えること

入学が近づくと、「ひらがなが全部読めない」「まだきれいに書けない」と心配になることもあるでしょう。でも、幼児期は「何文字できるか」だけで準備が整っているかを判断する時期ではありません。

文字に興味をもつ
↓
身近な文字に気付く
↓
読んでみる
↓
書いてみる
↓
文字で伝わる楽しさを知る
↓
小学校の学習へつながる

遊びや生活のなかで、こうした経験を少しずつ重ねていけば十分です。

もちろん、入学前からひらがなに親しんでおくことは、小学校で文字を学ぶときの助けになります。自分の名前を見つけたり、絵本を一緒に読んだり、お友達に手紙を書いたり。毎日の暮らしのなかにも、文字に触れるきっかけはたくさんあります。

小学校入学は、文字の学びのゴールではなくスタートです。

「全部できるようにしておかなきゃ」と焦るより、「文字っておもしろい」「読んでみたい・書いてみたい」という気持ちを育てながら、小学校での学びにつなげていきましょう。


参考資料・出典

文部科学省「幼稚園教育要領・幼稚園教育要領解説」
文部科学省「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」
こども家庭庁「保育所保育指針」
こども家庭庁「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」
国立教育政策研究所「スタートカリキュラム ミニブック―子供の学びと育ちをつなぐために」
愛媛県教育委員会「幼児教育」

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